【狂える愛02】
▼ガイ×ルーク
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【01】
外殻大地への戻り方を誰かに聞こうと、ルークはミュウを連れて部屋を出た。適当にその辺を歩いていた人に訊ねれば、アラミス湧水洞から外殻大地へと出られるそうだ。
迷いのないルークの足取りは、一刻も早くガイに会いたいと言っている。
だが、その出鼻をくじくように、誰かの非難じみた声が背後からかかった。
「ルーク!」
億劫そうに振り向いたルークの視線の先にいたのは、ティアだった。
一瞥だけしてそのまま歩き去ろうとするルークの元へ、彼女がつかつかと歩み寄ってくる。その表情は、どこか怒気をはらんでいた。
「ルーク、待ちなさい。どこへ行こうと言うの?」
「……外殻大地だよ」
ティアに肩を掴まれ無理やり振り向かされ、ルークは怒ったように投げやりな態度で言った。
「そう……でも、せめて一言欲しかったわ。何も言わずに居なくなっていたら心配するでしょう?」
「……そうかよ。いいから手を離せよ。悪いけど急いでるんだ」
「急いでるって……まだ目覚めたばかりじゃない。もう少し休んでからでも……」
尚も縋ろうとするティアの手を、ルークは叩き落とした。そして、冷ややかな目でティアを見つめ、言う。
「休んでる暇なんかねーよ。こうしてる間にも、ガイはアッシュに騙されてるんだ!」
必死な様子で叫ぶルークのその言葉に、ティアは瞠目した。彼女には、彼の言っていることの意味がまったくと言って良いほどに理解できなかったのだ。
「騙されてる……? ガイが、アッシュに? それは、一体どういうことなの?」
問われたルークは、思い出したくもないとでも言うかのように、憎悪で顔を歪ませる。
初めて見るルークの表情に、ティアはようやく、ルークの何かがおかしいと気付き始めた。
「アッシュ、あいつが――……ガイは、俺と間違えてるんだ! アッシュを、俺だと!」
言っていることは支離滅裂ではあったが、ティアはルークの言わんとせんことを理解することができた。しかし、言っていることは理解できても、どうして彼がそんな風に考えているのかは理解できない。
「ルーク、落ち着いて……ガイは別に、あなたとアッシュを間違えてはいないわ」
ティアがそう言い終えた瞬間、今まで逸る気持ちをなんとか抑えているようだったルークが、ピタリと――それこそ不気味なくらいに、落ち着いたのだ。
「……ルーク?」
恐る恐るといった感じに、ティアがルークの顔色を伺うと、そこには怖いくらいの無表情があった。そして、焦点の定まらない瞳が、ゆっくりとティアへ向けられる。
その空っぽな瞳に、ティアは恐怖を感じた。
「――ティア、何言ってんだよ。ガイはアッシュを俺と間違えたんだ。だからほら、髪切ったんだ。これでもう、間違えないだろ?」
ティアを見てはいるが何も映さないルークの瞳が、柔らかな笑みで細められる。
ルークの肩に乗っているミュウが、心配そうに――何かを訴えるかのように、ティアを見つめていた。
しかしティアは、そんなミュウの視線には遂に気付くことはなかった。
「……違うわ、ルーク。ガイは間違えた訳じゃなくて、自分の意志で――」
一瞬だった。
ティアが気付いた時には、ルークの剣がティアの喉元ギリギリのところに突きつけられていた。
ひゅ、と思わず息を呑んだティアの目の前にあるルークの顔は、再び憎悪に染まっていた。
「――黙れよ。殺すぞ」
それがただの脅しではないと、彼の目が訴えていた。
言うなれば、実行予告。
このままでは、本当に殺される――ティアはそう直感した。
その時、それまで黙っていた魔物が、殺気に満ちた少年に声をかけた。
「ご主人様、もう行った方が良いですの! ガイさんが待ちくたびれてしまいますの!」
次の瞬間には、身もすくむような殺気は消え失せていた。
それもそうだな――そう言って、剣を収めたルークがミュウに優しく微笑みかけている。
もはやティアへの興味は尽きたとでも言わんばかりに、とうとうこちらを見やることもなく踵を返したルークを見て、ティアは安堵を覚えていた。恐らく、ミュウがティアを助けるために機転をきかせてくれたのだ。
遠ざかる背を見つめながら、ティアは酷い後悔にさいなまれていた。修復不可能なまでに狂ってしまったあの少年を想って。その原因の一端は、間違いなく自分にもあるのだから。
ミュウの喋り方分からない(*;ω人)
そしてティアごめん…!
2011.12.09(Fri)