【キミが居た未来06】
▼ジェイド×ルーク
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「馬鹿げている――」
「……ッ」
「――と、言いたいところですが、作り話にしては出来すぎている。何にせよ、興味深いですね。レプリカなのは、事実なようですし」
「えっ……それじゃあ、」
「信じたわけではありませんが、聞くに値するとは思います」
「っ……ありがとう……ジェイド……!」
ジェイドが聞く耳を持ってくれた――そのことが本当に嬉しくて、ルークは思わず顔を綻ばせた。
一方、ルークに満面の笑みを向けられたジェイドは、訝しげに眉を寄せる。そして、言った。
「……ひとつ、腑に落ちないことがあります」
疑り深いジェイドのことだ。何より、自分の拙い説明では上手く伝わりきらないことも分かっていた。だから、何かしら質問はされるだろうと思っていたので、ルークは特に驚かなかった。
何を聞かれても、正直に自分の知っていることを話すだけだ。
――そう、決めていた……のだが。
「話によれば、あなたは意識を取り戻した後、真っ先に私の元へ来たということになります。鳩を飛ばして連絡することもできたはずです。それをせずに直接会いに来た。故郷のバチカルではなく、このグランコクマに。……一体、なぜですか?」
思わず、息が止まった。
ルークは実を言うと、いくつかの詳細を話していなかった。
ひとつは、自分が本当は死ぬ運命だったということ。
死を覚悟しながらも使命を果たしたなんて、自分で言うのは格好がつかない上に、そんな重い覚悟を軽々しく口にするのはどこか嘘くさいと思ったのだ。こうして自分は今も生きているのだから、別段触れなくても構わないと思った。
そしてもうひとつは、ジェイドとの関係――つまり、ルークとジェイドが恋人同士だということ。
これは、話せるわけがなかった。自分のことを知らないジェイドに、俺たちは愛し合う恋人同士だなんて、とてもじゃないが言えない。だから何も言わなかったのだが、頭の回るジェイドには、やはり不自然に思えたようだ。
「……や、約束……してたんだよ、ジェイドと。全部終わったら、ジェイドに1番に会いに行くって……」
核心には触れずに、それだけを言う。
けれど、こんな説明でジェイドが納得するはずもなく。
「鳩を飛ばす時間も惜しんで会いに来るような、親密な関係なのですか、私達は?」
案の定投げかけられた更なる追求に、ルークの動機がどうしても早まる。
どうしよう、どうしよう――
ばくばくと煩い心臓の音を聞きながら、ルークは必死に何か良い言い訳はないか、頭をフル回転させて考える。
「えっと……それ、は」
言い淀むルークを見て、ジェイドの瞳に再び剣呑な色が宿った。
「……何か、言えないことでもあるのですか?」
まずい――ルークは思った。
せっかく話を聞いてくれるようになったというのに、ここで信頼を失うわけにはいかない。
(でも、だからって……本当のこと、言えるわけ……ねえよ……!)
何も言えずに俯くルークを、ジェイドがじっと見つめている。
早く――早く何か、言わないと――
「……な、仲間、だよ……旅の、」
「他にも仲間は居るのでしょう? それでは私の元にまず先に来る理由にはなりませんよ。嘘はつかないと……あなた、1番初めに言いましたよね?」
「……っ」
「私に、信じて欲しいのではなかったのですか?……やはり、虚言でしたか」
「ちがっ! ちがう!!」
「でしたら、話してくれますよね? 本当のことを」
「…………」
もう駄目だと、ルークには分かった。元より、ジェイドに口で敵うはずがないのだ。こうなってしまえば、本当のことを話す他にはない。
ピオニーは、ルークとジェイドのやり取りを困惑した面持ちでただ黙って見ている。恐らく、彼も疑問に思っているのだ。せっかく信じてくれたピオニーの信頼を、裏切るわけにもいかない。
腹を括って、ルークはおずおずと口を開いた。
「俺と……ジェイド、は……こっ……恋人同士――だから」
そう言い終えた瞬間、広い室内がしん……と静まり返った。
顔が熱い。恥ずかしくてどうにかなってしまいそうだ。
きっと自分は今、真っ赤な顔をしているのだろう。居た堪れなくて、ルークは俯いた。
「――………そ……そう、か! はははっ、そうか、恋人同士か~!」
暫く続いた沈黙を破ったのは、やけに明るいピオニーの声だった。
「よ、良かったな~ジェイド! とうとうお前にも春が来たじゃないか!」
ピオニーは明らかに動揺していた。目の前の少年からそんな答えが返ってくるなど、予想にもしていなかったのだから当然だ。
ルークの知るピオニーは同性愛に偏見はないようだったが、偏見の有無に関わらず、この状況で驚くなという方が無理な話だ。
「そうか~、一刻も早く恋人に会いたくて、鳩を飛ばす時間も惜しんでここまで来たんだな。妬けるじゃないか、なぁジェイド」
固まってしまった場を和ませるためか、茶化すようにどこか冗談交じりにピオニーがジェイドに話しかけた。
しかし、そんなピオニーの気遣いも、ジェイドの反応によって無意味に終わる。
「…………冗談ではない」
「お、おい、ジェイ――」
「私とあなたが恋人同士? 何ですかそれは」
焦ったようにピオニーが止めるのも聞かずに、ジェイドが言う。恐ろしいほどに、冷たい声で。
顔から血の気が引くのを、ルークは感じた。
駄目だ――顔を上げるな――頭のどこか片隅で、そう忠告する声が聞こえる。
けれど、ルークは咄嗟に顔を上げて、ジェイドの目を真正面から見てしまった。
「――男同士で恋人などと……気色悪い」
その瞬間、まるで時が止まってしまったかのようだった。
世界から唐突に、全ての音が消え失せた気さえした。
上手く働かないルークの頭に理解できるのは、ジェイドが嫌悪感あらわにルークを睨んでいるというたったひとつの現実だけ。
「あなたの知る私がどうだったかは知りませんが、私はあなたとそういう関係になろうという気はまったくありませんので」
どこか遠いところから聞こえてくるかのようなジェイドの声は、だが確かにはっきりとルークの耳に届く。
それは、夢を見ているような感覚だった。けれど同時に、夢であればどんなに良いかと思わずにはいられないほどリアルでもあった。
「ですから、変な期待をして私に近づかないでくださいね。迷惑ですし――正直、気持ちが悪いです」
その瞬間――ルークの頭に思い浮かんだのは、
必ず帰って来てくださいねと、
いつまでも、ずっとずっと待っていますからと、
そして最後に――愛していますと、
ルークを愛おしそうに見つめて微笑んだ、大好きな恋人の顔だった。
当初の予定よりも鬱度が緩和されている…
ピオニー陛下マジ清涼剤すぎる←
2012.02.06(Mon)