【キミが居た未来07】
▼ジェイド×ルーク
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ピオニーとの謁見は、あの後すぐにお開きとなった。
正直、あれ以上ジェイドと同じ空間に居ることが苦痛だったルークには、それは好都合だった。
そして更に幸運なことに、見張り付きではあるが、ルークはしばらくの間、宮殿に滞在させてもらえることになったのだ。
バチカルの屋敷には、この世界の――13歳の自分が居る。
元より、17歳の自分が行ったとしても“ルーク”として認識されないのは分かりきっている。
今のルークに行く宛など、この世界のどこにもない。だから、ピオニーの好意には本当に救われた。
あてがわれた部屋に入って早々、ルークは室内の真ん中に置かれたクイーンサイズのベッドにうつ伏せに倒れ込んだ。
これまでに色々なことがありすぎて、既にルークの精神はボロボロの満身創痍だった。
帰ってきた世界が、自分の居た――自分の帰りたかった世界ではないという事実。
誰よりも会いたかった――そして無事に再会できたと思った恋人の、自分を見るあの嫌悪に染まった目と、かけられた辛辣な言葉。
それらは、どうしようもなくルークの心を苛み続けている。
『あなたの知る私がどうだったかは知りませんが、私はあなたとそういう関係になろうという気はまったくありませんので。ですから、変な期待をして私に近づかないでくださいね。迷惑ですし――正直、気持ちが悪いです』
ジェイドのその言葉を聞くまでルークは、分かったつもりでいて、実のところ何も分かってなどいなかったのだ。――自分が、4年前の過去に居るということが、一体どういうことなのかを。
自分の馬鹿さ加減に、ルークは恥も外聞も投げ捨てて叫び出したくなった。
(……4年前のジェイドも同じだなんて……どうして思ったんだろう)
ジェイドだけではない。ピオニーも、この世界のどこかに居る他のパーティメンバー達も、ルークの世界の“彼ら”とは違う存在だ。
そして、この世界の“彼ら”が、ルークの知っている“彼ら”ではないように、この世界の“ルーク”も、“自分”ではないのだ。ルーク自身、この世界にいる13歳の“ルーク”とは別の存在なのだから。
まるで、世界にひとり、取り残されたようだと、ルークは思った。
そして、自分という異分子――未来のルークが過去に来てしまったことと、未来の出来事を話してしまったことによって、これから起こる未来は変わってしまったはずだ。
少なくとも、ルークの知る通りの未来にはならないだろう。
未来への帰り方など見当もつかないが、それでも――未来そのものが変わってしまうということは、それはつまり、自分の帰る未来がなくなるということではないか?
そこまで考えを巡らせた瞬間、ルークは足元が崩れ去るような恐怖を覚えた。
(――もしかして、俺はもう、元の世界には帰れない……?)
その瞬間、ずっと待っていると言ってくれた恋人の顔が、脳裏に浮かんだ。
せっかく生き残ることが、できたというのに。帰ると、約束したのに。自分でその可能性を、潰してしまったというのか。
(そんな――じゃあ、もう……俺と約束をした“あのジェイド”には、二度と会えないんだ……っ!)
そう思うと、今まで必死に我慢していた涙が堪えきれずに零れた。
馬鹿正直に未来のことを軽々しく話してしまった迂闊な自分を、ルークは今更になって悔いた。
少なくとも、ルークとジェイドが恋仲だということだけは、話すべきではなかった。
(馬鹿だ、俺……っ! ジェイドなら俺のことを受け入れてくれるだなんて、どうして思ったんだろう……!)
この世界のジェイドは、ルークのことを何も知らないというのに。
嫌悪感あらわに、男同士で恋人同士など気色悪いと言われた。変な期待をして近づくなと言われた。
ジェイドとの関係が、始まる前から終わってしまった。未来が変わってしまった。
もしジェイドが4年後に、この世界のルークと出会っても、その先に何が起こるか知っている彼は、きっとルークに必要以上に近づかない。
そもそも、もし仮にこの先ルークの知る通りの未来が訪れたとして、その時この世界のジェイドと結ばれるのは、この世界の――現在13歳の“ルーク”だ。
その時、ジェイドを愛している自分は?
未来へ帰ることもできず、世界のどこにも居場所がない自分は?
「…………ジェイ、ド……っ!」
もう2度と自分の居た未来に帰れないことが悲しくて、生きているのに約束を果たせない自分が情けなくて悔しくて、どうにもならないこの状況に絶望して、ただボロボロと涙が溢れた。
しかし、今何よりもルークの心を占めているのは、自分自身に対する嫌悪だった。
(――最低だ、俺……っ)
ベッドの上で寝返りをうって、ルークは涙で歪んだ視界でぼんやりと天井を見上げる。
(……一瞬でも、生きて帰って来なければ良かった、なんて――!)
そんなことを思ってしまった自分自身に、ルークは酷く自己嫌悪した。
一万人のレプリカ達を、被験者であるアッシュを差し置いて生き残った自分が、どうして生きたくなかったなんて言えるだろう。
自分には、そんなことを言う資格などないというのに。
死を選ぶことよりも、生きることが自らの犯してしまった罪に対する償いなのだと、ジェイドにも言われたではないか。
それでも――ルークは考えてしまう。
生き残りさえしなければ、ルークはあのジェイドに会わなくて済んだのだと。
あんな視線を向けられることも、あんな言葉をかけられることも、なかったのだと。
自分を知る者の居ないこの世界に、ひとり取り残されてしまうこともなかったのだと。
そう思うと、あのまま消えてしまえば良かったと願ってしまうのを、ルークはどうしても止められなかった。
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久々にキミ未来更新です(`・ω・´)
まだまだ鬱展開は続きそうです…
ルークをいじめるのは書いてて楽しいですけどね!←
早く幸せにしてあげたい…。幸せに…なれるのか…?
2012.03.13(Tue)